インデックス運用のビジネスモデル(5)
顧客はインデックスファンドに何を求めるか?
年金基金と個人とでは当然運用の目的もスタンスも異なるので、要求する点も異なるだろう。また、同じ年金基金でも、運用する資金量や顧客属性(企業年金なのか公的年金なのか)によっても異なってくる。その多様性を脇に置いて、共通の傾向を見出そうとするのは悪しき一般化だという説もあるが、ここでは一旦見通しを良くするために、一般的な傾向について考えてみたいと思う。
まずは教科書的なおさらいから。
運用商品には、αを提供するものとβを提供するものの二種類がある。
αとは、ファンドのリターンとベンチマークリターンの差。運用者の腕によって獲得する超過リターンのこと。運用者の能力を評価する際には、インフォメーションレシオ(リスク調整後リターン。単位リスクあたりの超過リターンを示す)が高いこと、獲得するαが他の運用者のαと相関が低いことが評価のポイントとなる。他のαとの相関が低いと、分散効果が働きやすい、戦略の独自性が高いため陳腐化しにくい、というメリットがある。
βとは、株式市場や債券市場といった特定の資産クラス全体に幅広く分散投資した際に取るリスクのこと。マーケットリスク、システマティックリスクなどとも呼ばれる。βによるリターンを獲得するには、個別銘柄の選定はせずに機械的に分散投資すればよいので、アクティブ運用のような銘柄選択のスキルは不要。一方で、ベンチマークへの安定した連動性を確保するリスク管理のスキル、売買コスト等を最小化するコストマネジメントのスキルが求められる。
α型商品は、リターン重視の攻めの商品。β型商品は、リスク・コスト管理重視の守りの商品、という分類となる。尚、多分に主観も混じるのだが、インデックスマネージャーに「守りの仕事」という言葉を言うと、眉毛がぴくっと動くことがある。(心の声:俺達の仕事は守りじゃねえ。)
また、「これだけ面倒で複雑な事務を安定的にこなすには高いオペレーションのスキルが必要だから、誰にでもできるわけじゃないよね」という、発言者にとっては褒めているつもりの言葉に対しても、イラッとくるケースがある。(心の声:俺の仕事はオペレーションじゃねえ。)
同様に、バックオフィス経験のある人が、「いやあ、インデックス運用のセクションって、バックオフィスの雰囲気に近いんですね。実は私は以前バックで・・・」などと、親近感を出したつもりの発言をした場合、その人は暫くは暗い夜道は通らない方がいい。(心の声:俺はバックじゃなくてフロントだ!)
以前、近傍の職種の人から、「インデックスマネージャーはプライドが高い」と形容されたことがあるが、これは、建前としてはフロント職種なのだが、実態として仕事内容はミドルorバックに近い、という捻じれた環境下にあるため、仕事面での健全な誇りを維持するのが困難だ、という事情も大きいように思う。
最終的に人格まで捻じれるか否かは、もう皆いい大人なので自己責任だと思うので、情状酌量の余地があるとは思はないが、建前と実態が一致していた方が精神衛生上いいし、キャリア形成上も有益だろう。
個人のキャリア形成上は、明らかに建前(フロント職)よりも実態(ミドル/バック職)に合わせて専門知識とスキルを磨いた方が将来性がある。建前の部分は要は見せ方の問題なので、その辺はプレゼンの工夫で解決できるし、そもそも建前と実態が乖離した状態がそう長く続くとは思えない。この乖離は、早晩建前が実態に歩み寄る形で収束すると個人的には考えている。
そうなったときの市場価値を高めるために、個人的には今はミドル・バック系のスキルを伸ばすことに注力している。自分の競争相手が少なくなる、という意味では、もう少しこの「フロント職幻想」が継続してくれた方が良いが、周囲に同じ志を持つ同志がいた方が日々切磋琢磨できるという説もあるので、個人のキャリア形成としてはなかなか微妙なところだ、と感じている。
この捻じれ問題の根本は、インデックス運用特有の問題ではなく、「資産運用ビジネスで重要なのは運用力で、その運用力を発揮するフロント職が偉い」という雰囲気があり、暗黙のうちにフロント>ミドル・バックというヒエラルキーが成立しているという点にあると思う。(そういえば、こうした曖昧な「運用力」を売りにして商品を売る資産運用会社を宗教のビジネスモデルと同じだと某大家が言っていたっけ・・・。)
さて、話を戻すと、建前はさておき、インデックス運用は守りのビジネスだ。そしてコモデティとしての性質が強い。まずこの現実を受け入れないことには前に進めないように思う。逆に、中途半端なプライドを捨て、この現実を直視すれば、色々と工夫の余地のあるやりがいのあるビジネスだ、とも思う。
そうした観点で、顧客がインデックス運用に求めるものを列挙してみた。
①安い信託報酬
②安定的で高水準なレンディングフィー
③売買執行時のコスト抑制
④資産管理ツールとしての利便性の高さ
⑤安定してベンチマークに追従するリスク管理能力
⑥多様な商品の品揃え
⑦ファンド運営の透明性/再現性
詳細は次回以降。
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